Waste to Value: Pioneering the Future of Sustainable Architecture with Straw

Waste to Value: Pioneering the Future of Sustainable Architecture with Straw

Title

「捨てる」から「活かす」へ:藁が拓くサステナブル建築の未来

Category
Circular EconomyArchitectureEPDSustainability
Status
Worl in Progress

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はじめに

近年、省エネルギー建築やサステナビリティへの関心が高まる中、ヨーロッパでは従来は廃棄されてきた資源を活用した建材や、既存材料の再利用が進んでいます。中でも、農業副産物である「藁(わら)」を建材として利用する取り組みは、環境負荷の低減に大きく貢献すると期待されています。この記事では、ドイツの建築プロジェクト「querbeet」を例に、藁がどのように現代建築の課題を解決しているのかをご紹介し、サステナビリティやカーボンニュートラルといった視点から、藁建築の可能性を探っていきます。

伝統素材の現代的再解釈

藁の建築と聞いて、多くの方が思い浮かべるのは、古民家や茅葺き屋根かもしれません。藁は古くから日本の生活に深く根ざし、畳や草履、蓑、そして食料の保存材として、私たちの暮らしを支えてきました。しかし、現代の建築現場で藁が建材として使われることは、ほとんどありません。

一方で、ドイツやヨーロッパでは藁を建材として本格的に活用する動きが活発です。特に注目すべきは、中高層の建築物にも応用されている点です。ドイツのコミュニティ住宅プロジェクト「querbeet」では、藁、木材、土といった自然素材を組み合わせて、4階建ての都市型建築が実現されました。日本ではまだ珍しい多層階の藁建築は、伝統的な素材が現代の都市環境にも適応できることを証明しています。

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先進的な「藁」の多層建築プロジェクト「querbeet」

ドイツ・リューネブルクで2024年初頭に完成した集合住宅プロジェクト「querbeet」は、4階建て2棟、計40戸の木造建築(階段室コアのみRC造)で、藁を圧縮して断熱材として使用するストローベイルが採用されました。

ドイツの建築基準では、建物の規模に応じて「Gebäudeklasse(建物クラス)」が定められ、防火性などの要件が規定されています。「querbeet」は防火規制が厳しい、高さ13mまでの中規模建築にあたる建物クラス4に分類されるため、通常は可燃性の断熱材を外壁に使用することはできません。しかし「querbeet」では、藁を充填したパネルを、荷重を支えない非耐力壁とし、その他の梁と柱、耐力壁を構造体とすることで、この制約をクリアしました。これにより、藁という一見可燃性の高い素材を安全に建物に組み込むことが可能になったのです。

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このプロジェクトが示す最大の利点は、環境負荷の低減です。藁の製造段階でのCO₂排出は、乾燥や圧縮時のエネルギーを除いて、ほぼゼロで、さらに藁や木材といった再生可能資源は、成長過程で大気中の二酸化炭素を吸収し、建材として使われることで長期にわたり炭素を固定します。そのため、藁断熱の建物は、従来のRC造や組積レンガ造と比べて、多くのCO₂排出量を削減できます。

新素材の防火性能と検証

かつてドイツでも「火に弱そう」「カビる」「ネズミが住み着く」といった偏見が藁建築の普及を阻んでいました。しかし、ドイツ藁建築協会(FASBA)は藁の熱伝導率や燃焼性を科学的に検証し、耐火試験に成功。藁は「燃えやすい材料」というイメージを払拭し、建材としての実用性を証明しました。そして、2014年には欧州技術評価が交付され、わずか8mmの土や石灰の左官仕上げと組み合わせる事で藁が外壁に使えるようになったのです。 また、すべての藁断熱壁は両面を土と石灰の左官仕上げで覆っています。この仕上げ層は、調湿効果により快適な室内環境を保つだけでなく、防火性能を大幅に高める役割も果たしました。さらに、藁の持つ高い断熱性能は暖房エネルギーを大幅に削減し、夏季の冷房需要も抑制します。加えて、遮音性能にも配慮し、重厚な土壁仕上げや木材とコンクリートの複合スラブを採用することで、高い音環境の質を実現しています。

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共同で建てる: Baugruppe

ドイツでは集合住宅のプロジェクトの際に、「Baugruppe(バウグルッペ)」と呼ばれる複数の住民が出資し合い、設計や建設段階から協働する仕組みが広がっています。「querbeet」プロジェクトで総工費は1,880万ユーロにのぼりました。この巨額の費用を、約25%の自己資金と75%の銀行融資でまかなったのは、38の参加者からなるBaugruppeです。 銀行融資はグループ全体で借り入れるのではなく、各参加者が個別に契約しました。これにより、各自が自らのローンに責任を持つ一方、プロジェクトは共同で進められました。建設価格の高騰により追加コストが発生するなど、経済的な試練もありましたが、参加者同士の強い信頼関係と、多大な時間と費用を投じる共同作業を通じて、「私たちの家」という当事者意識が育まれ、プロジェクトの推進力となりました。

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ドイツの事例から見る日本での藁建築の可能性

「querbeet」プロジェクトが証明したように、藁は中高層建築においても有効な建材となり得ます。日本は稲作が盛んで、藁が大量に農業副産物として発生します。その有効利用は、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミー推進に貢献できるかもしれません。

一方で、新しい技術を導入する際には、安定した供給体制の構築や建築基準法への適合といった課題があります。さらに、「querbeet」の成功は、顧客を共同運営者として巻き込む「Baugruppe」の手法によって支えられた側面もあり、単なる技術的革新に留まらず、経済性・社会性を含む多角的視点を統合することが、新規プロジェクトの成功や持続可能なビジネスモデル構築において重要であることを示唆しています。

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まとめとアクション:Waste to Value「捨てる」から「活かす」へ

「捨てる」という選択肢しかなかった材料を、現代の技術で再解釈し、「新しい価値」を創造することは、これからの建築において重要なテーマです。これは、単なる省エネルギー化に留まらず、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーの実現にも大きく貢献します。

多くの建築関連企業がサステナビリティへの取り組みを加速させていく中で、ドイツの先進事例から学べる点は多いのではないでしょうか。私たちは、ドイツに拠点を置く日本人メンバーの企業として、現地リサーチや関係者へのヒアリングを通じ、貴社の新規事業開発をサポートします。

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info@4ds-int.com

写真:nbau. Nachhaltig Bauen

参照:https://www.nbau.org/2025/02/25/mehrgeschossig-mit-stroh-gemeinschaftswohnprojekt-querbeet/